弦楽器が生まれ、現在のバイオリンのように顎と肩の間に挟んで演奏するようになり、しばらくの間は当然ながら顎当てはありませんでした。
奏法の発達とともに顎当てが考案され、現在の肩当てと併せて使用するようになったのですが、とても楽に楽器を保持することができるようになったためか「左手で支えてはいけない」と指導されることも多いようです。
この場合、楽器の重さ、弓と右手の重さを顎で支え続けるのでなかなかの負担です。
肩は懲り、首は痛み、広範囲で筋肉は硬直し、場合によっては顎にアザができ、悪くすると身体を壊して弾けなくなってしまうでしょう。
顎当てを手前に引き、ネックが下らないように保持しますが、支点になる肩当てが首から離れるほど、顎への負担は軽くなります。
しかしながら、この支点が首から離れるほど肩の自由はなくなってしまうため、できるだけ首に近い位置に肩当てを調整しなければなりません。
どのように調整しても「左手で支えない」呪縛がある限り、肩と顎や頭が拘束されることになります。
対して「楽器は左手で支えてはいけないのか」で記したとおり、左手で支えることを前提とした場合、顎あてを引いて支える必要がないため位置移動などの補助的なものとなります。
さらに、肩当ても補助的なものになるため支点は限りなく首へ。
極端に言うとバイオリンのエッジ付近が支点で、ほぼ「滑らなければ良い程度」となります。
首、肩への負担が激減し、頭と左腕が自由になり、筋肉の硬直を防げます。これがいかに楽か想像できるでしょう。
顎あてから顎は浮かせ、面ではなくエッジの線を首にあてます。すると頭は自由になり、鎖骨への負担はほぼ楽器の重さだけになります。
例えば分数楽器、3/4でも全く問題なしに構えられるはずです。
また、力が抜ければ抜けるほど安定し良い状態になります。
ここで「弾いているからこそ安定する」感覚がとても大切だと付け加えさせてください。
弾かずに構えだけを模索するのは、止まっている自転車で両足を地面から離すようなもの。
走っているから安定する自転車と似ています。
食らいつくように顎当てに頼らなければ弾けない場合、一度顎当てを外して何日か練習してみることをお勧めします。
案外、弾けることに驚くはずです。
そうすることで身体への負担を減らし、良いパフォーマンスを長く維持できるようになるでしょう。
「左手で支えてはいけない」からくる力で楽器を保持する顎あての使い方と違い、左手で支え「楽器が安定する場所へ置く」方法は、先生に付きっきりで指導いただいても1ヶ月以上、感覚がつかめませんでした。
ですから現在の先生が「左手で支えてはいけない」という方針の場合、お薦めできません。
まずは形から真似し、辛抱強い指摘を毎回のレッスンで受け続け、毎日の自主練習を繰り返すなかで幻のように現れては消える不思議な安定感の理由を探し続け、ようやく体得できるように思います。