今や、ほぼ全ての奏者が使う肩当て(肩台)。しかしヴィルトゥオーゾと呼ばれる大家には使わない人も多い。その中には肩当てを考案したメニューインも含まれています。
彼らは単に、肩当てがなかっただけなのでしょうか?それとも、試していないだけ?研究熱心な奏者が試してもいないとは考えられません。
肩当てがなかった時代では、背広の肩パットや厚い布を重ねたりして肩台として利用する奏者は多くいました。にも関わらず、晩年まで肩当てを採用していないということは、なにか理由があるのではないでしょうか。
ユーディ・メニューイン
1916年4月22日、ニューヨーク生まれのヴァイオリニスト。1999年3月12日、心臓発作のためベルリンで死去。ヴァイオリンの神童として、子供の頃からその天才ぶりを発揮し、12歳の時ベルリン・フィルと共演し、一夜にバッハ、ベートーヴェン、ブラームスの3曲の協奏曲を弾くという快挙を成し遂げ、一躍世界的に有名になった。また、後年は音楽学校を設立し、後進の育成にも熱心に尽力した。
ヤッシャ・ハイフェッツ(1901.2.2 ? 1987.12.10)は、その86年の生涯のうち、実に83年にわたってヴァイオリンを手にしていた。そして60年の長きに渡り、世界をまたにかけて聴衆の前に立ち続けてきた。
1891年1月20日、南ロシアのタルノエ生まれのヴァイオリニスト。1967年4月5日、ニューヨークにて没。オデッサ王立音楽学校を経て、1903年、レオポルド・アウアーに認められ、ペテルブルク音楽院に入学。1904年、13歳でのベルリン・デビューでは神童の出現とセンセーションを巻き起こした。1908年、ニューヨークでも大成功を収め、1911年からアメリカに住む。師匠アウアー譲りの名人芸に加えて、「エルマン・トーン」と呼ばれる甘美な音色で一世を風靡した。
イブリー・ギトリス、イツァーク・パールマン、オイストラフ、グリュミオー・・・上げればキリがありません。
・単になかったから?
・それで育ったから?
そんな理由で探究心旺盛な彼らが何も試さなかったとは思えません。「使わないほうが良い」という明確な理由があったのだと思います。
過去の偉人への憧れ、師匠の方針、肩当てに頼らないのは単にカッコいいという想い、いろんな思惑はあるにせよ、肩当てを外して弾きたい貴方へ10年以上ブリッジ型の肩あて(肩台)を使っていた私が、数か月で完全に不要になった手順をシェアします。
はじめに:現在、指導を受けている先生が「左手で楽器を支えてはいけない」という方針の場合、それに従う方が良いと思います。
私は肩あてを積極的に使うべきだと考えています。この記事は肩あてを推奨しないものではありません。
大まかな手順
1.スポンジ製肩あて「アコースタ・グリップ」を購入する。
2.ネックを左手の親指だけで支える。左手でV字を作らない。
3.顎あてから顎を外し、エッジ部を首にあてる。
4.アコースタ・グリップをスライスし徐々に薄くする。
5.鎖骨に乗る感覚を覚えたら、更に薄くスライスする。
6.アコースタ・グリップの代わりに滑り止めの布を使用する。
【重要な事項】練習曲は、解放絃を多く含む音階練習などを必ず毎日取り組んでください。解放絃を弾くときは親指だけでネックを支え、人差し指の付け根でネックを支えなくとも弾けるとなお良いです。
人差し指の付け根をネックにあてがってしまうと、ビブラートや位置移動に支障が生まれ、結局顎当てで強く楽器を拘束する→肩あてが欲しくなることになります。
●それぞれの詳細な手順
1.スポンジ製肩あて「アコースタ・グリップ」を購入する。
徐々にスライスし薄くできる「アコースタ・グリップ」を使用します。この素晴らしい肩あてはブリッジ型と違和感なく使えるだけでなく、自由に貼る場所を調整し、どんな体型にもフィットする柔軟性があります。
2.ネックを左手の親指だけで支える。左手でV字を作らない。
「左手でV字を作り、ネックを挟む=親指と左手人差し指の付け根をネックにあてがう」としている限り、顎あてに頼らなければ楽器が動いてしまいます。
親指だけで支えた場合、絃を押える指の反力だけで済むので楽なだけでなく、親指と人差し指付け根の力加減で楽器が揺れないので顎で押さえつける必要がなくなります。
3.顎あてから顎を外し、エッジ部を首にあてる。
顎の骨部分を顎当ての面にあてている場合、引いているつもりでも下向きの力がかかり、そのまま肩への荷重となります。この状態では肩あてがなければ支え続けるのは痛みを伴うでしょう。
エッジ部だけを首へひっかけた場合、楽器の重さだけが鎖骨に乗るようになるためとても軽く感じます。
また、このようにすると楽器自体の「厚み」が必要なくなるので肩あてで高さを稼ぐ必要がなくなります。分数7/8楽器などでも全く問題なく構えることができるでしょう。
4.アコースタ・グリップをスライスし徐々に薄くする。
恐らく上の状態で既に肩あてが高すぎると感じていると思われます。少しづつ、数ミリ単位でスライスし、低くしていきます。これには1週間に1回、数ミリ程度で数週間をかけると良いでしょう。
5.鎖骨に乗る感覚を覚えたら、更に薄くスライスする。
徐々に薄くしていくと、肩と胸にかかっていた楽器の重さが鎖骨にかかりだします。弾いていて、鎖骨に重さが乗ると安定する感覚を感じてください。この感覚が得られだしたら更にスライスし、鎖骨に預ける感覚を伸ばします。
鎖骨に乗った感覚で安心できるようになったら、ネックを支える左手を緩め、首と鎖骨に預ける重さを増やしてみます。若干ネックが下がった位置で安定したら、ほんの少し左手で支え保ちます。
顎を引くでもなく、左手で支えるでもなく、楽器が自然に乗っている、このバランス感覚がとても大切です。
6.アコースタ・グリップの代わりに滑り止めの布を使用する。
肩あてと楽器は滑りませんが、今度は布と楽器が動きますので大きな変化を感じると思います。
交互に使うなどして、徐々にすべり止め布に慣れてください。最初はハンカチを挟み、厚みをつけると良いでしょう。