北イタリア、ロンバルディナ州クレモナ。
ストラディバリウスで有名なこの街は、私も一度訪れましたが都市でも田舎でもない住みやすそうな街でした。
軒先にニスを乾かすために楽器が吊ってあるバイオリン工房があちこちに見られ、弦楽器製作学校や記念博物館など、今でも弦楽器の製作文化は衰えることなく続いています。
2012年には、ユネスコの無形文化遺産に指定されました。
博物館ではストラディバリウス、アマティ、ガルネリなど名だたる製作者の楽器を間近で見ることができるだけでなく、私は残念ながら聞けませんでしたが演奏されることもあるようです。
また、実際に製作に使われていた道具も展示されており、ストラディバリウスがいかに凄まじい勢いで製作していたかを感じることができます。
私がクレモナに行った理由は、自分の楽器の製作者に会いに行くこと。彼女は同じく弦楽器製作家と結婚し、この街に工房を構えていました。
彼女の師事したステファーノ・コニア氏は現代の名工と呼ばれ、このとき弦楽器製作学校の理事を務めていました。
仕事ぶりはイタリア人らしく、「シエスタ」の時間には2時間のランチ休憩をとり、趣味のサイクリングにでかけて午後の仕事に戻る、というスタイルを何十年も続けているとのこと。
きっとストラディバリウスも、似たような職業スタイルだったことでしょう。国民性の違いが見てとれます。
クレモナが優れた弦楽器の産地として成功した理由の一つに、豊富な材料があると思います。クレモナに限らず、弦楽器製作で有名な街は、どこも豊富な木材資源に恵まれています。また、乾燥した時期の多い気候も弦楽器に適した木材の確保に一役かっています。
更に石作りの建物が多い地域性も忘れることはできません。
よく響く部屋の中で進化していったバイオリン属は、楽器そのもので長く響くような構造になっていません。ピアノやギターと比較してみると分かりやすいでしょう。
屋外ではたちまち周囲に吸収され、そっけない音になってしまいます。
クレモナの楽器製作技術は世界で最も素晴らしいとされ、「Cremona」と銘が付くだけで値段が跳ね上がるほどです。ひとつのブランドのようになっているため、偽のクレモナ製楽器が多く出回ったのも事実。そのため、クレモナ製であることを証明する制度まで作られました。
「クレモナで作られた楽器はほんとうに良いものなのか?」と真偽を問う声もあります。確かに一時期ドイツや中国など良質が楽器が多く世に出回り、かつての隆盛を欠いた時期がありました。
しかしその良質で豊富な材料、弦楽器製作学校など技術継承教育の充実、厳正なコンテスト制度、世界中から志ある若者が集まってくるなどの背景を考えると、疑いようがありません。
これからも弦楽器製作の中心地として歴史は進んで行くでしょう。