不慣れな練習生でも容易に安定してバイオリンを構えることができる肩あては、自転車の補助輪のように表現されることがあります。
しかしながら、プロ奏者から趣味として楽しむ奏者まで広く普及していることから見てもそれほど害のあるものとは思えません。むしろ、積極的に使うべきではないでしょうか。
私自身、現在は使用していませんが、10年以上ブリッジ型の肩あてを使って練習していました。
それぞれのメリット、デメリットを列記します。
肩あてを使わないメリット
- 肩あてが外れたり、支持脚のゴムが劣化して裏板を傷つける恐れがない
- 楽器の響きを身体で感じるため、気持ちいい
この他、左手で適切に支えることにより
- 首、肩への負担がほとんどないため楽に演奏できる
- 弾いているほうが安定する
などが挙げられます。
対して、肩あてを使わないデメリット
- 安定して構えられるようになるまでに時間がかかる、または構えること自体できない場合がある
- 左手の支えなしに長時間構えることは難しい
肩あてを使うメリット
- 容易にバイオリンを安定させることができる
- 左手を完全にフリーにすることができる
- 鎖骨や肩などへ接する直接的な負担を分散させることができる
肩あてを使うデメリット
- 「左手で支えてはいけない」と考えると首、肩への負担がかかり続ける。
- 頭が固定されることにより、広範囲の筋肉が硬直する。
- 楽器本来の響きを身体で感じることができない。
- ブリッジ脚で締め付けることにより、胴の響きが若干押えられる。
位置移動やビブラートは肩あてを使わないと難しいと感じる奏者もいるようですが、奏法により全く問題ないので挙げませんでした。
また、肩当てがなくても左手をフリーにすることができます。
このように一長一短ありどちらが正しいとは言えませんが、現在師事している先生によると、肩あてを外すというより奏法により不要になるという表現が正しいです。
私のように「決して左手で支えてはならない」と指導された奏者には肩あての使用が必須ですが、これに弊害があるように思います。
肩あてを使わない場合、左手の支えなしに長時間弾くことは難しいためこの問題はありません。
そもそも、顎と肩で支え続けようとする考え方に無理があるでしょう。
顎当てを下向きに押えるのではなく手前に引くことで肩への負担を減らすことができますが、バイオリンを上から押える重さが肩に載らないだけで、肩あてを支点に回転しようとする顎へ上向きの力がなくなる訳ではありません。
これは肩あてと顎当ての距離を離す=首から遠い位置に置くほど軽減されるのですが、同時に首から肩への広い範囲を拘束することになります。「肩とバイオリンの隙間を埋める」を使用する理由にあげる奏者もおられると思いますが、この結果でしょう。
「なで肩なので」という理由は同じく肩にバイオリンを置こうとしていることが原因で、やはり肩を拘束してしまいます。
この状態で長時間良いパフォーマンスを保つのはかなり難しいし、弾けば弾くほど狙った位置からずれ、保つためにより大きな力が要り、場合によっては身体を壊してしまうでしょう。
- 基本的に左手で楽器を支え、肩と頭は自由な状態で
- 顎あてを補助的に使用
- 顎あては面に顎をあてるのではなく、エッジ部分を首にあてる
このように考えると、肩あては首に近い部分で安定するため高さは低くなり、なで肩かどうかは関係なくほとんどの場合不要になります。
支点が肩(胴の中寄り)から首の近く(エンドピン側)へ移ることで顎あたりでの楽器の動きが減り、より安定するはずです。
できるだけ顎と肩で支えない奏法を心がけたうえで肩あてを使うことが身体の負担を減らし、自由を与え、良いパフォーマンスを長く保てるかと思います。