絃を選ぶために、歴史背景から知ろう

2015年4月29日
アクセサリー

「箱に絃を張っただけ」という単純な作りをしているバイオリン属は、演奏するときに人が直接触れる弦の種類が大きく音色に影響します。

楽器にも歴史があるように、絃にも歴史があり、その時代背景と製作技術には密接な関係があります。

一概に「○○の絃の特徴は・・・」と考えがちですが、その時代や、そのときの製作技術を含めて選ぶ必要があるかもしれません。

【弦楽器の普及】

弦楽器が産まれたころ、現在のように細く強く張っても切れない鉄の線、ワイヤー状のものは楽器に使われませんでした。

羊の腸を素材に加工したガット絃の誕生です。この強力な絃は、他の材料に比べ安定した音程を維持し、長期間に渡って絃として使える理想的な材料だったのです。

この絃により、バイオリン属が楽器として流通することをできるようになったと言っても良いかもしれません。不安定極まる楽器では、普及しようがありません。

しかし、いかに当時の優れた絃とはいえ、現在のスチール絃のような強靭さは持ち合わせておらず、湿気の影響を受けやすく、扱いが難しい高価で寿命の短いもの。まだまだ「強く、安く、扱いやすい」絃の出現が待たれるところでした。

このガット絃の音色は柔らかく豊かな特徴があり、現在でも好んで使用されています。

画像はガット弦で最もファンの多いと思われる「オリーブ」です。

保管には通常の丸く小さく巻かれた状態ではなく、伸ばした状態で収めます。バイオリンケースにはこの絃のための専用ケースがあるのはそのためです。通常の絃でも袋から取り出してここへ収納している方を見ますが、錆など出やすいので買ったままの状態で保管するほうが良いでしょう。

【スチール絃の出現】

鉄の加工技術が進歩し、スチール製の絃が考案されます。
この素晴らしい素材はより安定した品質と性能を発揮し、広く普及します。

錆意外の弱点はなく、運搬、保管、扱いも手軽で極めて丈夫です。金属的な硬い音がしますが、明るい音色とも言え、好んで使われる奏者も少なくありません。

現代ではE線にだけ使用される場合が多いようです。この場合、とても細い線なので絃に付属しているバイプを駒にあて、食い込み、割れを防ぎます。

【現代のスタンダード、ナイロン弦】

近年になって、ナイロンに鉄やステンレス、アルミを巻いた絃が開発され、世界中のスタンダードとなりました。

ガットとスチールの良いところをとったような、柔らかい音色と調弦の安定、強靭さと低価格の実現は広く普及するのに時間がかからなかったことを想像できます。

しかしながら、この素晴らしい絃よりもガット絃の音色を好む熱心なファンの存在により、現在でも高価なガットは販売され続けています。


「ベルロン」と呼ばれるナイロン繊維素材をコア(芯)に用いた「ドミナント」は、素晴らしい耐久性と強い音量、豊かな音色と低価格を実現し、圧倒的なシェアを獲得しました。私も使っていましたが、扱いやすさ、弾きやすさ、音色、価格と最も使いやすい絃と感じています。

【シンセティックコアの出現】

ナイロン絃の出現でぐっと身近になったバイオリン属ですが、やはりガット弦の豊かな音色には根強いファンがいます。
そこで、ガット絃が切れてしまったときや日本の梅雨時など不利なときに、違和感なく演奏できることを目標にシンセティックコア絃が開発されました。

この絃はガット絃に劣らない豊かで美しい音色を実現しています。


私も使っている「チタニウム」はボール部分にチタンを使用しており、これを外すことでループと兼用できるようになっています。

ドミナントに比べ高価なことがデメリットですが、調弦の安定性、豊かな音色、耐久性、弾きやすさどれをとっても死角はなく、最もお勧めできる絃です。

【絃の重要性】

バイオリン属の絃は最も安価なものでも数千円するため、つい長く使ってしまいがちです。

しかし、数十万円もする楽器を購入して1年以上も絃を張り替えない人を見ると、「そんなに高額な楽器、ほんとに必要だったの?」と疑問を持ってしまいます。高い絃の張替えをためらうより、安い絃を良い状態で使うほうが良い演奏に繋がります。

楽器本来の性能をじゅうぶんに発揮するためにも、絃は良い状態を保たなければならないでしょう。